たばこを吸って7年、退去時クリーニング費用ってどうなるの?
先日、とある管理会社に管理を任せているオーナーから連絡をいただきました。7年前はご縁がなく、所有されている物件の管理をすることができなかったのは残念ですが、定期的に連絡をいただいています。
さて、今回は退去時クリーニング費用。管理会社から届いた貸主負担部分のクリーニング費用の金額をみてびっくり。いつもこんなに請求あったっけ!?あれ!?借主喫煙によるクロスの張替えが貸主負担になっている!?なんで!?
「普通に住んでついたキズや汚れは(経年変化)なので「貸主」の費用負担ですよ」
「わざとうっかりキズや汚れをつけてしまった場合は(故意・過失)なので「借主」の費用負担になりますよ。」
部屋を借りる時にこんな説明されたのを覚えていますでしょうか。退去時や契約時に退去時クリーニング費用をお部屋の広さによって支払うことが多いですが、そのクリーニング費用に+して費用が掛かるのがこの故意・過失部分です。
では、今回のテーマである喫煙によってクロス等がヤニで変色、臭いが付着した場合のクロスの張替え費用、果たしてどちらの負担になるのでしょうか。
喫煙者に対して喫煙によるクロスの汚れを理由とした張替えの請求ができるのでしょうか?
国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)」を参考にお話しをしていきます。
・喫煙によるクロスの汚れ、通常損耗と故意過失のどちらに!?
ポイントは3つあります。
- 喫煙等によりクロス等がヤニで変色、臭いが付着している場合は、借主が費用負担する
- 借主側に請求できる喫煙による現状回復費用は、居住年数による減価償却で変化する
- 契約書等「喫煙時にはクロス張り替え費用を借主が負担すること」という記載の有無
1.喫煙等によりクロス等がヤニで変色、臭いが付着している場合は、借主が費用負担する
国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)」では、
「喫煙等によりクロス等がヤニで変色したり臭いが付着している場合は、通常の使用による汚損を超えるものと判断される場合が多いと考えられる。なお、賃貸物件での喫煙等が禁じられている場合は、用法違反にあたるものと考えられる。」
国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)」
つまり、「通常損耗とは考えず借主の費用負担とする」場合が多いといえます。ただし、借主によるヤニ汚れの回復費用が常に借主負担となるわけではありません。
2.借主側に請求できる喫煙による現状回復費用は、居住年数による減価償却で変化する
原状回復におけるガイドラインでは、原状回復において経年劣化(変化)・減価償却の考え方を取り入れています。
この考え方は「建物・設備」などの価値は年数が経てば価値は減っていくものとしており、「入居の年数・経過年数によって価値が減った価格で精算するべき」としています。
つまり、喫煙などによるクロスの修繕などが必要な場合でも「現存する価値」の分に対しての請求となります。ガイドラインではクロスの耐用年数については「6年」としています。
*この6年の起点は
・今回の入居時に新しくクロスを張替えた場合、経過年数は入居時から6年
・前入居者3年(入居当時クロス張り替え)の場合、経過年数は前入居者3年+今回入居期間
となり、前入居者の入居していた期間も経過年数に通算されます。
貸主は借主に居住年数に応じた喫煙によるクロスの張替え費用の請求をする必要があり、6年以上経過している場合、価値は1円まで低下しているため、実質クロスの張替え費用は請求できないとも言えます。
3.契約書等「喫煙時にはクロス張り替え費用を借主が負担すること」という記載があるかないか
例えば、
「本物件はたばこ喫煙不可住戸です。喫煙による全室壁、天井部分クロスの張替え費用は借主の負担とし、経過年数を考慮しない。」
このような内容が契約書に記載があった場合、貸主と借主が合意をしていれば、喫煙などによるクロス張り替え費用は経年変化を考慮せず借主に請求しても問題はありません。貸主と借主の間で合意があれば、原則とは異なる特約を結ぶことができます。
ただし、
- その特約に必要性があり、暴利的では無いということ
- 借主が通常の現状回復のルールを超えた部分も負担をしているということを理解していること
- 貸主と借主の間で、特約の内容を合意していること
この3つを満たしておく必要があります。契約時に説明して合意をしておくことが大切なんです。
・まとめ
原則
- 喫煙等によりクロス等がヤニで変色、臭いが付着している場合は、借主が費用負担する
- 借主側に請求できる喫煙による現状回復費用は、居住年数による減価償却で変化する
例外
貸主と借主の間で合意があれば、原則とは異なる特約を結ぶことができる。
- その特約に必要性があり、暴利的では無いということ。
- 借主が、通常の現状回復のルールを超えた部分も負担をしているということを理解していること。
- 貸主と借主の間で、特約の内容を合意していること。
ということで、
契約書などで「喫煙時には、クロス張り替え費用を借主が負担すること」という記載、説明、合意
→借主に請求できる。
明確な記載や説明、合意がない場合
→6年以上居住している入居者であれば、借主にはほとんど費用請求ができない
になります。
オーナーから話を聞く限り、物件を管理している管理会社の契約書などには「喫煙」に関する明確な記載がなかったようです。記載していない以上、説明も合意もなかったということで、借主側の負担がほとんどなかったということになります。
最近では、少しずつ喫煙による現状回復費用の負担について明記をしている賃貸借契約書が増えてきているなと思った矢先の話でした。入居者が喫煙者の場合は、貸す側も借りる側も契約内容には注意しておきましょう。